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《内容概略》
1 一の宮の思い
つらつらおもんみるに(つくづく思いめぐらしてみれば)、古より今に至るまで朝敵を一時に滅ぼし、太平を四海にいたす事(天下を安泰に保つ方策は)武略の功に及(し)くはなし。
後醍醐帝の一の宮である尊良(たかなが)親王は、才能も容姿も優れていたが、幕府の意向で望みが絶たれ不遇の人であった。
あるとき、一の宮は、関白家での絵合わせで、源氏物語絵巻に似た女房に、心を奪われる。
2 琵琶引く姫と晴れて夫婦となる
下鴨社参詣の帰途、今出川公顕家の中から琵琶をひく源氏物語絵の絵姿そっくりのこの女房を垣間見て、恋に悩む。
今出川公顕の姫とわかり、今出川家での歌会に事寄せて姫のもとに忍んで行き、意中を伝えるが女は靡かない。
婚約中と知り諦めると、相手の徳大寺殿が身をひき、晴れて夫婦となる。
ところが、元弘の乱で、一の宮は土佐の国へと流罪になってしまう。警護の有井庄司は情けをかけ、御息所(みやすどころ)を迎えるために奏武文(はだのたけぶん)という人を遣わす。
3 御息所を奪われた武文の自害
武文は御息所を迎いに行って連れ出し、途中、風で舟待ちの尼埼で、筑紫の松浦五郎に御息所を奪われてしまう。
武文は無念さに「ただいま海底の竜神となって祟ってやる」と誓って船の舳板に突っ立って腹十文字に掻き切って蒼海の底へと入って行った。
4 御息所、竜神の生贄に
武文の怨霊は荒波を起こして舟を阻む。渦を治めるため御息所を竜神の生贄にしようと海に投げ入れようとする。
武文の怨霊が扇で招くので人々は怖れ、小舟に御息所をのせる。
松浦五郎の船は転覆するが、御息所は淡路の武島に漂着する。
5 御息所の遭難を知る
一の宮は、海中からあがった御息所の衣を見て遭難を知る。
戦は拡大し、ついに新田義貞によって鎌倉幕府が滅んだ。
後醍醐天皇も都に奉還し、一の宮も土佐から都に戻った。
6 再会の喜び
風の噂に武島という所で御息所が生きていることを知り、迎えの使者を送った。
二人は、喜びの再開をし、末永く共に暮らした。
かくて憂かれし世の中の時の間に引替え人間の栄華、天井の娯楽、極めずという日もなく、尽くさずという御遊もなし(つらく悲しい世の中がたちまち一片し)。
長生殿の内には梨花の雨、土塊を破らず(天子の御殿の中は梨花に降る雨が土壌を損ねることはない)。不老門の前には楊柳の風、枝を鳴らさず(不老門の前に風はおだやかである)。
今日を千年の始めと、めでたき例に明かし暮らさせ給ひける。
[参考] 本話は他の幸若舞の諸曲に対して新しく創作された曲の意味で命名された。
一の宮尊良は、歴史的には元弘二年土佐国の畑に配流され翌年帰京するが足利尊氏の反乱で新田義貞と共に越前金崎城に趣き、金崎城落城に際し新田義顕と共に自害している人物である。